職場の60代の人の父親が亡くなったのだと話された
88歳で大往生だったとの話だった
自分はじゃあ後28年仕事を頑張らないとですねと声をかけたが自信無さげに気落ちしていた
まだまだ全然いけるでしょう、どうしたんですかと言うと
どうも60を過ぎてから思考が止まるのだという
その言葉に一緒に働いてきて思い当たる節があったのを思い出し少し悲しくなった
自分は常々全員の同僚に分からなくなったら俺に聞け、出来ないなら自分でやろうとするなと何度も何度も口を酸っぱく言ってきた
しかしこの60代の同僚の人はいつまでも自分に聞かずそれで無駄な時間を費やしたり何度も何度も作業の内容を確認したりメモするようなことでも無いことを常にメモしていたのを思い出したのだ
これはつまり老衰なのかもしれない、と
自分は体験したことは無いし30代を過ぎてますます10代や20代の頃よりも頭脳は冴え渡る感じがしていたからだ
好奇心はより旺盛に、思考力はより深みに達していた
円熟の時期、一番脂が乗りに乗った知能の全盛期を迎えていたのだ
だから察せなかった
理解が遠く及ばなかった
人の知能が加齢により衰えるなど思いもよらなかったのだ
だが現実にそうなっている人が身近にいる
ただただその事実を私は受け入れる他になかった
私もいずれは年老いて死んでいくことはとうに受け入れていた
だがまさか60代で知能にガタつきが始まるなど想像していなかった
そんなことになるなど今でも疑わしいとさえ思っている程に
人は衰える
私にもそしてこの世の全員にも等しく残された時間は想像以上に短く、また残されていないのかもしれない