白球

――さぁこいつを打ち取れば全部終わりだ

 

「4番、センター、沢野」

ワアアアアと球場全体が怒号のような歓声で鳴り響いている

ペナントレースも終盤、現在首位と0.5ゲーム差まで肉薄した争いを繰り広げている両者の3連戦の最終戦が行われていた

この試合を決したチームが優勝を決める

試合は3対2の9回の裏2アウト、ランナーは無し

しかし迎え出たバッターはホームラン数両リーグトップの球界を代表する打者、沢野である

チラリとベンチを見る、敬遠の指示は出ていない

ふう、と一呼吸を入れて打者の沢野を見つめる

オーラが凄い、闘志が剥き身出たとてつもない雰囲気を感じる

キャッチャーのサインは外角ストレート

確かにその指示は同意だった

この場面、そしてこれほどの打者ならば初球から打ってくることはまず無い

ならカウントを優位に進める為初球のストライクは必ずとっておきたいところだ

と納得し頷いて投球動作に移ったがなにせこの場面、とてつもない緊張と重圧がかかる

動きの1つ1つの全てが重く感じる

この1年間の全てがもうあと、あと1人で決まってしまう

調子は決して悪くはない、良くも無いが

それでもこの、この1回、この1回の勝負を勝たせて欲しい

強くそう願った

その想いを手に込めて力強く腕を振りぬく

バシンッと大きく音をキャッチャーミットが響かせ静と動が球場を包む

ストライクと球審が告げまずは1ストライク目を取ることができた

ここから、ここからだ

次は、次はどこに投げる

全くプランなど考えていなく初球の沢野の反応を窺いながら攻めの戦略を構築する

捕手の指示はボールになる外角低めへのスライダー

いいぜ投げてやる、揺さぶるにはいい案に思える

ストライクゾーンじゃないことから初球よりは幾分か気楽に動作に入れて指示に目掛けて投げる

ボール球だ

沢野はこれを見逃しカウントは1-1へとなった

相手は一流打者だ

どこでカウントを取ればいい

コースを読まれれば危険極まりない

試合前に見たデータでは沢野は外角を得意とする打者でここ5試合のデータでは外角に対する打率は最低でも3割8分を超えておりど真ん中に至っては6割を誇っていた

ヤベエ打者だ

もう最悪歩かせばよくないか

勝ちたいんだよ

リスク侵す意味ある?これ

沢野はビッグマウスでよく記者に暴言を吐くことで有名だった

特に敬遠された日には相手チームの監督や選手に対しては「チ〇ポコついとんのかワレ」と言うのがもはやお決まりだった

特にこんな試合のこんな展開、歩かせれば何を言われるか分かったもんじゃない

監督はブルってんだ

俺は段々とムカつき腹が立ってきた

そこで1つの考えが浮かび上がり覚悟を決め投球動作に入る

渾身の全力のストレートを沢野の股間目掛け放る

沢野は打ちに行った構えを戻せずモロに股間に152キロの速度で放られた硬球を受けることとなった

その後無事に我がチームは試合に勝利し沢野は金玉を全摘出、無事女の子となった

記者への質問には「まだチ〇ポコはついとるわオレ…」とコメントし場を和ませた

来シーズンの戦いはもう始まっている

V2へ向けて俺達は白球を投げ込む――